私は、昭和33年、大阪市西淀川区で、男ばかりの三人兄弟の次男として生まれた。
もくもくと煙の上がる工場街の一角、父の勤めていた材木商の製材工場の片隅に、小さな我が家があった。
木造板張りの家屋はおんぼろで隙間だらけだったけれど、だからこその楽しい想い出がいっぱいある。
こんなことがあった。
ある晩、台所の流しで兄と二人歯を磨いていると、すぐ外で雑種の飼い犬がキュンキュンとないている。
子供の気配がこいしかったのだろうけれど、「コロ」って名前を呼んでやったら、突然台所の壁を突き破って顔を出して困った顔。
兄弟でおなかを抱えて大笑いした。
そんな、犬が鼻で押しただけで板が抜ける家も、そう他にもありますまい。
外の工場ではいつも、製材機やかんながけの機械がけたたましい騒音と埃を舞いあげていたけれど、出入りする工員や、大工の誰にでもなつき、昼休みにはよく、お茶をだしてあげたお礼に玉子焼きをもらっていた。
材木置き場を兼ねた工場はかっこうの遊び場で、休みの日には近所の子供たちが集まって、基地づくり、かくれんぼ、木っ端をつかっての工作と、町の小さな公園よりもよほど楽しい場所だった。
決して裕福ではなかったけれど、とても生き生きと輝いていた少年時代。
そんな、心の奥底に眠る想い出の原風景のような絵を描けたら、そんな思いで制作を続けている。